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2005年06月27日

巨匠2

演奏は終わった。


闇に満月が浮き出る空間は、満場の拍手溢れるコンサートホールに戻った。

会場の中央に配置された演奏機材に巨匠は構えていた。


みなの視線は集まっている。


眼鏡を外し、大きなからだはゆっくりとステージへと歩み寄る。

舞台に立ち、こちらに向かうと、拍手はひと際大きくなった。

巨匠は、すべての拍手に応えるように、端から見回していった。

口元がありがとう、と言っているようであった。


ステージの階段を下りようとした時、花束を渡された。

応えるべく中央に戻り、手を小さく振っていた。

ステージを降りると、中央には戻らず、一つの空席に淡々と座りこんだ。


拍手は鳴り止まない。


まるで、その音の響きを聞いているようだった。

巨匠はふと、立ち上がると、再びステージに立った。

はっきりとした眼差しはライトで輝いていた。

ステージを後にし、また空席に座った。


拍手は決して鳴り止まない。

むしろ、大きくなっていく。

巨匠は、また立ち上がり、舞台に向かう。


会場にはちらほらと、立ち上がるものが増えていく。

熱狂的なファンは歓声をあげ始めた。

鳴り止まぬ拍手に、なんどもなんども応えていった。


ステージを後にし、演奏機材の場所に戻っても、未だ拍手は鳴り止まなかった。

全ての客席に向かい、すみからすみまで手を大きく広げた。

巨匠の人生のなかでも、思い出深いであろうこの地で、

自分が演奏できる最後の機会だと思っているかのような、立ち振る舞いであった。

それは、なによりも感動的な現実の風景だった。


一人の青年は、帰り際に緊張しながらも巨匠に一つだけの質問をすることができた。


青年:あなたは、電子音楽作品を聞く時には眼を閉じてほしいと言っていました。
   ところが、演奏中に会場は、真っ暗でしたが、スポットライトが一つだけ、
   ステージの壁に、まるで満月のように当ててありました。

   何か意図はあるのでしょうか?


青年は、巨匠が曲に様々な神話などのモチーフなどを利用しているということを小耳に挟んでいた。ステージの光にも必ず意図があると思っていた。そして、それは巨匠の音を聴く上で少なからず、何かの意味を持っていると思っていた。


あっさりと巨匠は一言、笑いながら言う。


巨匠:だって、真っ暗だとおびえる人がいるだろう!

青年:そうでしたか!!!


周りはみな微笑んだ。

青年の肩の力は抜かれ、大きな手とゆっくり握手をし、帰路についた。

2005年06月27日 18:49

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